「地域おこし」と「NFT」を結びつけた実例として「山古志プロジェクト」は要チェック。
現在、日本全体の人口は減少傾向にあり、それに伴って維持が困難な地域、自治体、いわゆる「限界集落」が増加しています。
どの地域も知恵を絞って地域を盛り上げる努力をしていますが、苦戦している自治体が多いのも事実です。
そんな中、新潟県の山古志(やまこし)という地域が、地域おこしにNFTをとりいれたことで話題になっています。
この記事で、山古志の取り組んでいるNFTプロジェクトについて解説し、他の地域でも同じようなことができるのかどうかの分析をしたいと思うので、ぜひ参考にしてください。
新潟県山古志は震災を経て800人の限界集落に。
新潟県山古志は、千年の歴史を持つ、新潟県の中山間地域にある村です。平成の市町村合併を経て、現在は長岡市の一部となっています。
人口は2004年までは2200人程度でしたが、2004年の新潟県中越地震で壊滅的な被害を受け、ヘリコプターにより住民全員の避難がされるほどの影響が出ました。
各地で発生した地滑りにより、近隣集落とのライフラインが途絶え、多くの人が「もうこの地に戻ってくることはできない…」と感じ、山古志を後にしました。
中越地震を経て、現在の山古志の人口は800人となり、高齢化率は55%を超えています。

林さん、高瀬さんらとの繋がりでNFT発行が決定
「人口減少」「高齢化」という、多くの自治体の共通課題を抱えた山古志ですが、ツアーやイベントなど、あらゆることを実施し、地域おこしに取り組みました。
そんな中で行き着いたのが、全国各地で新たなコミュニティ作りを仕掛けるNext Commons Labの林篤志さんでした。林さんの紹介により、NFTやブロックチェーンの最先端で活躍している株式会社TARTの高瀬さんとも繋がり、NFT事業のスタートを決定しました。
幸いにも山古志は世界的にもファンの多い「錦鯉」発祥の地として知られており、錦鯉をテーマとしたNFTの発行が決定しました。
また、1トンを超える牛同士のぶつかり合いが見られる「牛の角突き」も千年を超える歴史があり、錦鯉に続くNFT化の期待が高まっています。

2021年12月〜NFTデジタルアート販売開始

2021年12月14日、山古志の錦鯉をモチーフとしたデジタルアート「Colord Carp」が発売されました。
このNFTアートは「電子住民票」としての役割を兼ねており、購入者は仮想の山古志住民になれる点が最大の特徴です。
価格は0.03ETH(販売当時約1.5万円)で、2022年3月時点で約350人が購入しており、その1割は海外の方です。
また、2022年3月9日には第二弾の販売も始まり、同じく0.03ETH(販売当時約9,000円)で発売されています。
第一弾と第二弾を合わせた合計の購入者は2022年3月時点で800人を超え、実際の山古志の人口830人を超える勢いとなっています。
「電子住民票」としてのNFT
山古志のNFTの特徴として、購入者は仮想の山古志の住民になれるという点があります。
- 購入者限定のDiscordグループに参加し、運営からの情報を得られる
- Discord上で住民会議に参加でき、DAOの一員になれる
- 資金(3ETH:約100万円分)の使い道を決めるアクションプランを提案できる
- 実行するアクションプランを選ぶ選挙に参加できる
仮想の山古志住民となることで、山古志にとって「ゲスト」や「ボランティア」ではなく「仲間」になってもらいたいという気持ちから、このように積極的に山古志の活性化に貢献してもらえるプランが用意されています。
2022円2月には、山古志のためのアクションプランが12個提案され、そのうち4つを対象に選挙が行われ、実行されるアクションプランが選ばれました。
選ばれたプランは、仮想住民10人が山古志を訪れ、山古志の写真を撮ってもらい、写真の中から一番いいものをNFT画像にして、ふるさと納税の返礼品にするという案でした。今後このプランを実行に移していく方針です。
実際の住民約800人に無償でNFTを配布決定
このようNFTを活用した地域創生を行う中で、リアルの山古志住民がNFTを購入し、Discordグループに参加するというケースが増えてきました。
NFTの購入者であるデジタルの山古志住民と、リアルの山古志住民をより強く結びつけるための取り組みとして、リアルな山古志住民全員にNFTを無償配布することに関する投票が行われました。
デジタル住民による投票の結果、賛成100%で可決となり、約800人のリアル住民全員にNFTが無償配布されました。
高齢化率の高い山古志なので、ウォレットやDiscordなどの使い方を日々レクチャーしつつ、少しづつリアルとデジタルの融合が試みられ、「山古志DAO」として活動が行われています。
山古志DAOは、住民800人+仮想住民10,000人を目指して今後もNFTの発行が予定されています。
全国の限界集落はNFTアートで存亡ができるのか?
以上が、NFTとDAOを絡めた、仮想山古志プロジェクトの概要です。山古志プロジェクトを一例に、「全国に増え続ける限界集落は同じことができるか?」を考えてみましょう。
山古志がNFTを発行し、DAOグループを運用することで以下のようなメリットが得られました。
- 資金が集まる
- 関係人口が増える
- 知名度が上がる
- アイデアが集まる
これらのどれも、限界集落にとってはノドから手が出るほど欲しいリソースばかりです。最終的に「移住者」「住民」が増えることが地域の希望ですが、上記のメリットが得られることで、移住者や住民が増える可能性が増加します。
NFTの発行は一見するといいことづくしですが、以下のようなハードルもあります。
- NFTやブロックチェーンに明るい協力者が必要
- 国内、世界でも珍しい例なので注目されやすかった
- 絵的に美しい観光資源が必要
山古志のケースでは、林さんや高瀬さんといった、Web3分野に明るい方の協力があったからこそ、このような取り組みが実現しました。今後、同じようにNFT発行を考えている自治体は、このようなアドバイザーとの繋がりが必須です。
また、山古志のケースは「NFTを活用して地域おこし」という、国内、世界でもまだ新しい取り組みなので、Web3分野に明るい方が注目しやすいタイミングでした。今後、山古志の二番煎じ、三番煎じになっていくと、インパクトが減るので、より画期的なアイデアが求めらることになります。
観光資源に関しては、山古志は世界的に人気の高い「錦鯉」発祥の地ということで、ビジュアルが大事なNFTとの相性が良かったと言えます。どの地域にもなにかしらの観光資源はありますが、錦鯉ほどビジュアルに優れていることは稀かと思うので、NFTとなる素材に恵まれているのも大きな要素のひとつです。
今後も、NFTやブロックチェーン技術と、地域創生や地域おこしの分野が絡んだプロジェクトは登場し続けることが予想されますが、山古志のケースは注目し続けるべきケースと言えるでしょう。
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